新NISAの開始で、投資に興味を持つ方は増えています。投資は長期、分散が良いと言われていますが、どの程度分散すべきか分からない方も多いでしょう。
本記事では、分散投資が可能な「オールカントリー(全世界株式)」と、米国の指標「S&P500」を比較します。それぞれの特性を理解し、銘柄選択の参考にしてください。
- 「オールカントリー(全世界株式)」は世界中に分散投資ができ、低コストの運用が可能。「S&P500」はグローバル企業を含む米国のトップ企業に投資ができ、長期でも高い成長が期待できる
- 分散投資を重視したい場合はオールカントリー(全世界株式)、成長性(利益)を重視して投資したい場合はS&P500を選択するのがおすすめ
- オールカントリー(全世界株式)とS&P500の併用は、値動きの相関性が高くリスク分散にならないためおすすめしない。債券やリート、金のような株式と違う値動きをする金融商品を併用すれば、リスクの低減が計れる
投資にはリスクがあります。最終的な投資の決定はご自身の判断でお願いいたします。
「オールカントリー(全世界株式)」と「S&P500」の違いとは?
オールカントリー(全世界株式)とは、狭義では三菱UFJアセットマネジメント株式会社が運用するファンドの名称で、MSCIオールカントリーワールドインデックスに連動する指数で世界約50か国に分散投資ができます。
S&P500は、米国のニューヨーク証券取引所(NYSE)、NYSE American、NASDAQに上場する500銘柄の時価総額に連動する指数で、S&P500に連動する金融商品では、米国の500社に分散投資が可能です。
それぞれの特徴を、さらに詳しくご説明します。
オールカントリー(全世界株式)はオールマイティな堅実タイプ
オールカントリー(全世界株式)のメリット・デメリット | |||||||||||||||||||||
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メリット | ・世界中に分散投資ができる ・手数料が安い ・運用に悩まなくてよい ・世界経済の成長を享受できる | ||||||||||||||||||||
デメリット | ・米国への依存度が高い ・為替リスクがある |
オールカントリー(全世界株式)は、世界中に投資するため、究極の分散投資といえます。世界経済の成長に伴い、世界の株価も上昇していくことが見込まれます。
また、購入時手数料や信託財産留保額はなく、運用管理費用は同種の投資信託と比較しても最低水準にあり、低コストの運用が可能です。
ただし、米国への比率が約60%と高く、米国株への依存度は大きいと言えます。また、様々な通貨で投資するため、為替リスクもある点に注意が必要です。
参考:オールカントリー(全世界株式)交付目論見書_2024年7月25日_三菱UFJアセットマネジメント
S&P500は米国経済のトップを集めたエリートタイプ
S&P500のメリット・デメリット | |||||||||||||||||||||
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メリット | ・グローバル企業を含む米国のトップ企業に投資ができる ・値動きが分かりやすい ・長期でも高い成長率がある | ||||||||||||||||||||
デメリット | ・米国1国への集中投資リスクがある ・為替リスクがある |
S&P500は、米国企業のみの株式で構成されており集中投資リスクがありますが、米国のトップ企業にはグローバル企業も多く含まれているため、それぞれの会社の売上は世界中に分散されているとも言えます。
加えて米国は世界の技術革新をリードし、今後も継続した成長が期待できます。
また、S&P500の株価指数はテレビやネットでもよく報道され、値動きも分かりやすいでしょう。ただし、海外資産のため、為替リスクがある点に注意が必要です。

【項目別】オールカントリー(全世界株式)とS&P500を徹底比較
オールカントリー(全世界株式)とS&P500に投資できる商品には、それぞれ投資信託とETFがあります。
投資信託・ETFどちらもインデックスに連動させるため、運用手法に大きな差はありません。投資信託は注文締め切り日の翌日に約定しますが、ETFは当日に約定します。
オールカントリー(全世界株式)とS&P500に投資できる代表的な商品 | ||||||||||||||||||
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オールカントリー(全世界株式) | S&P500 | |||||||||||||||||
投資信託 | eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) | eMAXIS Slim米国株式(S&P500) | ||||||||||||||||
ETF | MAXIS全世界株式(オール・カントリー)上場投信 | MAXIS米国株式(S&P500)上場投信 |
三菱UFJアセットマネジメントでは、オールカントリー(全世界株式)とS&P500いずれも、eMAXIS Slimシリーズの投資信託を販売し、MAXISシリーズのETFも販売しています。
次からは、表の投資信託を例に詳しく比較していきます。
1. 投資先
オールカントリー(全世界株式)とS&P500の投資先 | ||
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国・地域 | 割合 | |
オールカントリー(全世界株式) | 米国 | 62.5% |
日本 | 5.0% | |
イギリス | 3.3% | |
カナダ | 2.7% | |
フランス | 2.5% | |
他42か国・地域 | 24.0% | |
S&P500 | 米国 | 100% |
参照:eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)追加型投信/内外/株式/インデックス型|月次レポート|三菱UFJアセットマネジメント
参照:eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)追加型投信/内外/株式/インデックス型|投資信託説明書(交付目論見書)|三菱UFJアセットマネジメント
オールカントリー(全世界株式)の投資先は世界47の国と地域に及びます。そのうち先進国が23か国、新興国が24か国と国の数では半々ですが、構成比率は先進国90.0%、新興国10.0%です。北米の比率が高いですが、欧州、アジアを含め、全世界を網羅しています。
一方S&P500は、ニューヨーク証券取引所(NYSE)、NYSE American、NASDAQに上場する500銘柄を投資先としているため、米国の比率が100%です。S&P500は米国株式市場の時価総額の約80%をカバーしているので、米国の動きはS&P500でほぼ網羅されていると言っても過言ではありません。
2. ベンチマーク(指数)
オールカントリー(全世界株式)とS&P500のベンチマーク | |
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オールカントリー(全世界株式) | MSCIオールカントリーワールドインデックス |
S&P500 | S&P500 |
参照:eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)追加型投信/内外/株式/インデックス型|月次レポート|三菱UFJアセットマネジメント
オールカントリー(全世界株式)のベンチマークは、MSCIオールカントリーワールドインデックスです。米国のMSCI社が算出する指標の一つで、世界の先進国および新興国の株で構成されています。含まれる銘柄数は約2,760にも及びます。(2024年7月時点)
S&P500は、ベンチマークの名前がそのまま商品名にも使われており、米国のS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスLLCが算出する指標です。ニューヨーク証券取引所やナスダック市場の主だった銘柄が網羅されています。
大きく分散されているという点では両指数とも同じですが、オールカントリー(全世界株式)の方が通貨の分散も効いていると言えます。
3. 手数料(信託報酬)
オールカントリー(全世界株式)とS&P500の手数料(信託報酬) | ||
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運用管理費用(信託報酬) | 総経費率 | |
オールカントリー(全世界株式) | 年率0.05775%以内 | 年率0.11% |
S&P500 | 年率0.09372%以内 | 年率0.10% |
※手数料はすべて税込み価格です。
参照:eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)追加型投信/内外/株式/インデックス型|月次レポート|三菱UFJアセットマネジメント
参照:eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)追加型投信/内外/株式/インデックス型|投資信託説明書(交付目論見書)|三菱UFJアセットマネジメント
参照:eMAXIS Slim米国株式(S&P500)_三菱UFJアセットマネジメント
オールカントリー(全世界株式)もS&P500も購入時手数料や信託財産留保額はないので、基本的に手数料は運用管理費用(信託報酬)のみです。運用管理費用は目論見書で確認ができます。
eMXSIS Slimシリーズの運用管理費用は業界最低水準を目指しており、同種の投資信託の運用管理費用が下げられた場合に、可能な範囲で信託報酬率を下げることにしています。運用管理費用だけを見れば、オールカントリー(全世界株式)の方が低いです。
しかし、運用管理費用には監査費用や有価証券の売買費用は含まれていません。これら費用も含めた総経費率を比べると、S&P500の方が若干低くなっています。
参照:とことんコストを追求する投資信託、eMAXISSlim(イーマクシス・スリム)
4. 収益(出典:楽天証券)
オールカントリー(全世界株式)とS&P500の収益(リターンの年率) | ||||
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1年 | 3年 | 5年 | ||
オールカントリー(全世界株式) | 34.03 | 17.43 | 19.55 | |
S&P500 | 40.55 | 21.39 | 23.73 |
参照:eMAXISSlim全世界株式(オール・カントリー)|投資信託|楽天証券
参照:eMAXISSlim米国株式(S&P500)|投資信託|楽天証券
投資を行う際は、収益を示すリターンは重要な指標です。2021年からの株価上昇と急速な円安も加わり、両銘柄とも年率のリターンは非常に高くなっています。
海外の株式などへの投資時は、株価の上下動以外にも為替の動きによってリターンが変わることに注意が必要です。過去5年間のパフォーマンスを比較すると、S&P500の方がどの期間をとってもリターンが高水準でした。
オールカントリー(全世界株式)は全世界に分散しているため、米国の株高が続いた直近では米国のみに投資するS&P500と比較してリターンは低いです。
5. リスク指標(出典:楽天証券)
オールカントリー(全世界株式)とS&P500のリスク指標(標準差) | ||||
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1年 | 3年 | 5年 | ||
オールカントリー(全世界株式) | 14.53 | 16.98 | 20.14 | |
S&P500 | 15.83 | 18.55 | 21.07 |
参照:eMAXISSlim全世界株式(オール・カントリー)|投資信託|楽天証券
参照:eMAXISSlim米国株式(S&P500)|投資信託|楽天証券
標準偏差とは、リターンのばらつきを示す指標です。例えば年平均リターンが5%の投資信託で標準偏差が10%とすると、今後のリターンは-5%(5%-10%)から15%(5%+10%)の範囲内に収まる確率が68.3%であるというものです。標準偏差は債券など値動きの低いものは小さく、株式では高くなります。
オールカントリー(全世界株式)とS&P500の標準偏差を比較すると、オールカントリー(全世界株式)が若干低いですが、大きな差とは言えません。オールカントリー(全世界株式)が優位になるには、米国が大きな調整を迎えたり、世界経済が米国以外の地域で大きく伸びるなどの要因が必要でしょう。
6. トラッキングエラー(出典:楽天証券)
オールカントリー(全世界株式)とS&P500のトラッキングエラー | ||||
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1年 | 3年 | 5年 | ||
オールカントリー(全世界株式) | 2.89 | 4.64 | 4.91 | |
S&P500 | 3.01 | 3.37 | 4.17 |
参照:eMAXISSlim全世界株式(オール・カントリー)|投資信託|楽天証券
参照:eMAXISSlim米国株式(S&P500)|投資信託|楽天証券
トラッキングエラーとは、ポートフォリオのリターンとベンチマークのリターンの乖離の大きさを示す指標です。
アクティブファンドはベンチマークを上回る運用を目指すため、乖離率は大きくなりますが、インデックスに連動させるパッシブファンドでは、0に近い方が良いとされています。1年のトラッキングエラーはS&P500の方が大きいですが、3年、5年ではオールカントリー(全世界株式)の方が大きいです。
オールカントリー(全世界株式)は投資先が多い分、指数との差が開くと考えられます。運用管理費用等がかかるので、トラッキングエラーが0になることはほぼありませんが、3~5程度で収まっていれば問題ないと言えるでしょう。
【結論】オールカントリー(全世界株式)とS&P500はどっちが良い?
結論
- 分散投資を重視したい人:オールカントリー(全世界株式)
- 利益や成長を重視したい人:S&P500
オールカントリー(全世界株式)は全世界の株式に投資するため、これ以上の分散投資はありません。したがって、分散を重視した投資を希望する場合、オールカントリー(全世界株式)を選択するのが良いでしょう。
一方、世界経済の中で米国は大きなウエイトを占める上、米ドルの基軸通貨としての地位も当面続くことが予想されます。米国の成長が今後も世界経済を牽引していくと考えるのであれば、S&P500を選択するのが良いでしょう。
オールカントリー(全世界株式)とS&P500は併用しても良い?
オールカントリー(全世界株式)とS&P500を併用することはおすすめしません。
なぜなら、オールカントリー(全世界株式)は米国の比率が60%程度あるため、S&P500を併用すると米国株式の割合が高くなってしまうからです。
もし併用するのであれば、債券やリート、金などの株式と値動きが異なる金融資産を併用しましょう。
まとめ
オールカントリー(全世界株式)とS&P500を比較してきましたが、それぞれ特性があるので、ご自身の投資スタンスにあわせて選択することをおすすめします。
分散投資を重視したい場合はオールカントリー(全世界株式)、成長性(利益)を重視して投資したい場合はS&P500を選択しましょう。
ただしこの2つを併用するのはおすすめしません。株式という同じリスクカテゴリーの商品では、値動きの相関性が高く、リスク分散にならないからです。
もしリスクを低減させたいのであれば、債券やリートもしくは金のようなリスクカテゴリーの違う金融商品を選びましょう。リスクの低減が計れます。
