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2022年4月より、不妊治療の基本治療がすべて保険適用となり、これまで高額だった不妊治療の多くが3割負担で済むようになりました。高額療養費制度や自治体の助成事業もうまく活用すれば、不妊治療の自己負担額をさらに抑えることが可能です。
この記事では、保険適用後の不妊治療にかかる費用や、不妊治療の負担軽減のために活用できる制度について解説します。不妊治療を検討されている方、不妊治療にはどのくらいの費用がかかるか知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
- 結婚期間9年以下の夫婦の半数近くが「不妊の心配」を抱えており、実際に不妊治療を経験したカップルは2割以上
- 不妊治療の費用負担軽減のために健康保険・高額療養費制度・民間の医療保険・各自治体の助成制度・金融機関のローンといった制度をうまく活用することが大切
- 不妊治療のケースごとに自己負担額は異なるが、各自治体の助成制度等を活用することで、費用を軽減することができる
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不妊治療を経験した夫婦は2割以上
昨今では、多くの夫婦が不妊の心配を抱えています。国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、4割以上の夫婦が「不妊の心配あり」と回答しています。
それは結婚期間が長くになるにつれ増える傾向にあり、結婚期間が0~4年の場合は45.6%、結婚期間が5~9年の場合は47.4%の人が不安に思っていることがわかりました。
また同調査では、2割以上の夫婦が不妊治療を経験していると回答。結婚期間5~9年の夫婦は、不妊治療経験者の割合は28%でした。
参照:国立社会保障・人口問題研究所 第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)P64
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保険適用後の不妊治療費用の目安
不妊治療には段階があり、以下のような順で進んでいくケースが多いです。
- 1. 検査および原因疾患の治療(排卵障害・造精機能障害など)
- 2. 一般不妊治療(人工授精など)
- 3. 生殖補助医療(体外受精・顕微授精など)
以前は、2の一般不妊治療以降の治療は健康保険の適用外でしたが、2022年4月より不妊治療の基本治療がすべて保険適用となりました。以下は、保険適用後の不妊治療費用の目安です。
不妊治療の保険適用有無・治療費の目安 | |||
---|---|---|---|
治療法 | 健康保険 | 治療費の目安 | |
検査(原因検索) | 適用(一部自費の検査あり) | 数千円~/回 | |
一般不妊治療 | タイミング法 | 適用 | 750円/回 |
人工授精 | 適用 | 5,460円/回 | |
生殖補助医療 | 体外受精 | 適用 | 約6万円~ |
顕微授精 | 適用 | 約8万円~ | |
精巣内精子採取術 | 適用 | 37,200円~ |
かつては人工授精で1~3万円、体外受精で20~70万円の自己負担が発生していたことを考えると、不妊治療にかかる費用は大幅に軽減されています。一般不妊治療(タイミング法・人工授精)までは、1回あたり数千円の負担で済むことがわります。
参考として、診療内容別の診療報酬と自己負担額は以下の通りです。
診療報酬点数一覧 | ||||
---|---|---|---|---|
診療内容 | 診療報酬 | 3割負担の場合の 自己負担額 | ||
一般不妊治療 | タイミング法 | 一般不妊治療管理料 | 250点 | 750円 |
人工授精 | 人工授精 | 1,820点 | 5,460円 | |
生殖補助医療 | 生殖補助医療管理料 | 250点~ | 750円~ | |
採卵 | 採卵術 | 3,200点~ | 9,600円~ | |
抗ミュラー管ホルモン | 600点 | 1,800円 | ||
採精 | Y染色体微小欠失検査 | 3,770点 | 11,310円 | |
精巣内精子採取術 | 12,400点~ | 37,200円~ | ||
体外受精 | 体外受精 | 4,200点 | 12,600円 | |
顕微授精 | 顕微授精 | 4,800点~ | 14,400円~ | |
受精卵・胚培養 | 受精卵・胚培養管理料 | 4,500点~ | 13,500円~ | |
胚凍結保存 | 胚凍結保存管理料 | 5,000点~ | 15,000円~ | |
胚凍結保存維持管理料 | 3,500点 | 10,500円 | ||
胚移植 | 新鮮胚移植 | 7,500点 | 22,500円 | |
凍結・融解胚移植 | 12,000点 | 36,000円 |
実際に不妊治療をする際は、上記の診療と併せて診察代・検査代・薬代などが必要です。また、保険適用外の検査や治療を実施する場合もあるため、その内容によっては自己負担額が高くなる可能性もあります。
不妊治療の費用負担を軽減させる制度の活用方法
不妊治療の費用負担を軽減するには、今ある制度をうまく活用することが大切です。
ここからは、健康保険・高額療養費制度・民間の医療保険・各自治体の助成制度・金融機関のローンの上手な活用法をお伝えします。
健康保険の活用
不妊治療のうち、健康保険が適用される範囲は以下のとおりです。
保険適用となる不妊治療の範囲 | |||
---|---|---|---|
一般不妊治療 | タイミング法・人工授精 | ||
生殖補助医療 | 採卵・採精→体外受精・顕微授精→受精卵・胚培養→胚凍結保存→胚移植 |
健康保険が適用される治療の自己負担額は、総医療費の3割となります。ただし、上記の治療と併せて、保険適用外のオプション治療や先進医療が実施される場合があります。
保険適用外の治療については、医療費の全額が自己負担となるため注意しましょう。不妊治療の費用を最小限に抑えたい方は、保険適用の治療を優先してくれる病院を選ぶのがおすすめです。
また、保険適用の不妊治療についても、以下のとおり年齢制限と回数制限があります。不妊治療を検討中の方は、治療開始時の女性の年齢が43歳以上になると体外受精・顕微授精の保険適用対象外となってしまうためお気をつけください。
保険適用の年齢・回数の要件(体外受精・顕微授精) | ||
---|---|---|
年齢制限 | 治療開始時において女性の年齢が43歳未満であること | |
回数制限 | 40歳未満:通算6回まで(1子ごとに) 40歳以上:通算3回まで(1子ごとに) |
高額療養費制度の活用
高額療養費制度とは、1か月(同一月)の医療費の自己負担額が定められた上限額を超えたときに、超過分の払い戻しを受けられる制度のことです。以下のとおり、高額療養費制度の上限額は収入によって異なります。
高額療養費制度の上限額(69歳以下) | |
---|---|
収入 | 1か月の上限額(世帯ごと) |
年収約1,160万円~ | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% |
年収約770~1,160万円 | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% |
年収約370~770万円 | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% |
年収約370万円以下 | 57,600円 |
住民税非課税世帯 | 35,400円 |
不妊治療において、1か月の医療費自己負担額が高額になることは珍しくありません。医療機関の領収書は大切に保管し、高額療養費制度を利用できる場合は忘れずに申請しましょう。ただし、先進医療の費用など保険適用外の医療費は、高額療養費制度の支給対象外となるため注意が必要です。
高額療養費制度は、不妊治療に限らず、帝王切開で出産する際もよく利用される制度です。
また、あまり知られていませんが、医療機関窓口で「限度額適用認定証」を出すことで1か月のお支払いが最初から自己負担限度額までとなる方法があります。
最近ではマイナンバーカードを保険証代わりに使用することで、限度額適用認定証がなくても「高額療養費制度における限度額」を超える支払が免除されます。
民間の医療保険の活用
民間の医療保険のなかには、体外受精や顕微授精などの不妊治療を行った際に給付金を受け取れる商品があります。不妊治療の基本治療がすべて保険適用になったとはいえ、回数が重なればトータルコストは大きくなるので、民間の医療保険で備えておくとより安心です。
不妊治療への備えとして民間の医療保険に加入する際は、以下のポイントを必ず確認しましょう。
- 給付条件
- 給付額および給付回数上限
- 責任開始日(保障が始まる日)
- 不妊治療以外に対する保障の内容
特に注意したいのは、不妊治療に対する保障が開始される日がいつになるのかです。せっかく民間の医療保険に加入しても、責任開始日前に不妊治療を始めてしまうと給付金を受け取れません。民間の医療保険で不妊治療に備えるなら、妊活前の早いうちの加入をおすすめします。
医療保険に加入するには、原則「告知書」にご自身の健康状態や傷病歴を申告する必要があり、不妊治療も申告対象です。 不妊治療の過程で女性疾病が見つかり医療保険の選択肢を狭めてしまったり、不妊治療開始後に加入する医療保険は責任開始日前の原因に対しては保障が下りない場合があります。
不妊治療中は経済的にも精神的にも不安が多い時期ですので、ご自身の負担を減らすためにも妊活前に医療保険の加入を一考しておくと良いでしょう。
各自治体の助成制度の活用
自治体によっては、不妊治療費軽減のための助成事業を独自に行っているところがあります。不妊治療を受ける際は、自分の住んでいる地域の自治体ホームページなどを確認し、助成事業の有無や内容を確認しましょう。
以下は、不妊治療に対する独自の助成事業を行っている自治体の例です。
不妊治療に対する独自の助成事業を行っている自治体の例 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
自治体 | 概要 | ||||||||
東京都 | ・保険診療と併せて実施した、先進医療にかかる費用の一部を助成 ・助成回数:保険診療の回数に準ずる ・助成額:先進医療にかかった費用の10分の7 ・助成額上限:15万円 ・申請期限:1回の治療が終了した日の属する年度末(3月31日消印有効)まで | ||||||||
栃木県真岡市 | ・保険適用外不妊治療が必要と医師の診断を受け、栃木県の指定医療機関において治療を受けた、法律上の婚姻をしている夫婦に費用の一部を助成 ・助成額:不妊治療に要した費用の2分の1 ・助成上限額:年度あたり15万円(初回申請の場合、当該年度に限り30万円) ・助成期間:通算5年まで ・申請期間:不妊治療を受けた年度の翌年度末まで(年度をまたぐ場合、領収書の診療日で申請年度を分けて申請) | ||||||||
愛知県岩倉市 | ・不妊症と診断され、一般不妊治療を受けた戸籍上の夫婦及び事実婚関係にある男女に、保険適用の有無にかかわらず負担した費用の一部を助成 ・助成額:一般不妊治療に要した自己負担額の2分の1 ・助成額上限:1夫婦1年度当たりの限度額は4万5,000円 ・申請期限:2025年3月31日 | ||||||||
和歌山県田辺市 | ・一般不妊治療を受けた人を対象に、その治療費の一部を助成 ・助成限度額:1年度につき5万円 ・助成期間:連続する2年間 |
助成対象者や助成額などは自治体によって異なります。助成事業の詳細は、各リンク先のページをご確認ください。
金融機関のローンの活用
不妊治療の費用を支払えるか不安な方は、金融機関のローンの活用も検討してみてはいかがでしょうか。
不妊治療の費用をローンでまかなう際は、特定の目的のみに使える「目的別ローン」を選ぶのがおすすめです。用途を限定しないフリーローンやカードローンに比べ、目的別ローンなら低金利での借り入れができます。
以下は、不妊治療に使える目的別ローンの一例です。
不妊治療に使える目的別ローンの例 | |||
---|---|---|---|
金融機関名 | 商品名 | 利用限度額 | 年利 |
池田泉州銀行 | 妊活・育活応援ローン | 10~300万円 | 4.125% |
筑波銀行 | つくばメディカルローン | 10~300万円 | 3.65% |
スルガ銀行 | 不妊治療サポートプラン | 10~1,000万円 | 4.0~7.0% |
※年利は変動金利
他にも、「医療ローン」の活用もおすすめです。安定した収入があれば、出産費用としてお金が借りられる可能性が高いです。
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商品によって利用限度額や金利、担保や保証人の要・不要など条件が異なります。自分に合う最適なローンを選びにぜひご活用ください。
お金を借りるにあたって、金利(年利)は非常に重要です。 金融機関のローン以外にも、出産費用に備えて無利子で借りられる全国健康保険協会「出産費貸付制度」や、加入している保険によっては比較的低金利な「契約者貸付」という選択肢もあります。
ご自身にとれる選択肢の中で、できる限り低い金利のものを選ぶようにしましょう。
【ケーススタディ】保険や助成金を活用した際の不妊治療費用
保険や助成金を活用すると、どのくらい不妊治療費用を抑えられるのでしょうか。参考として、以下の3つのケーススタディを紹介します。
- ケース1. 一般不妊治療を受けた場合
- ケース2. 体外受精まで進んだ場合
- ケース3. 体外受精と併せて先進医療を行った場合
ケース1. 一般不妊治療を受けた場合
以下は、健康保険を適用し、一般不妊治療(タイミング法・人工授精)を行った場合の自己負担額の目安です。
保険適用 タイミング法6回・人工授精4回の場合 | |||
---|---|---|---|
治療内容 | 自己負担額 | ||
各種検査(経膣超音波検査・血液検査・子宮卵管造影検査など) | 2万円 | ||
タイミング法×6回(診察代・検査代・薬代も含む) | 4万円 | ||
人工授精×4回(診察代・検査代・薬代も含む) | 6万円 | ||
合計 | 12万円 |
保険適用(3割負担)の場合、タイミング法の費用は診察代・検査代・薬代を含めて1回あたり3,000円から2万円程度、人工授精の費用は1回あたり1万5,000円程度です。
一般不妊治療は、タイミング法を6回ほど試したあとに人工授精へステップアップする流れが一般的で、治療が長引くほど費用がかさみます。診察の回数や実施した検査、薬や注射の内容にもよりますが、タイミング法6回・人工授精4回の治療を行った場合の自己負担額は合計12万円ほどになるでしょう。
自治体によっては、一般不妊治療の自己負担費用を助成する事業を行っているところもあるため、一度確認してみてください。例えば、愛知県岩倉市の助成事業の対象となる場合、助成適用後の自己負担額は以下のとおり軽減されます。
愛知県岩倉市の助成事業を利用した場合 | |
---|---|
一般不妊治療費用(3割自己負担) | 12万円 |
助成金(※) | 4万5,000円 |
自己負担額合計 | 7万5,000円 |
ケース2. 体外受精まで進んだ場合
人工授精を4回ほど行ったあとは、体外受精へのステップアップを検討することになります。以下は、体外受精にかかる自己負担額の目安です。
保険適用の体外受精を行った場合 | |||
---|---|---|---|
治療内容 | 自己負担額 | ||
採卵・採精、受精卵・胚培養、胚凍結保存(診察代・検査代・薬代も含む) | 14万円 | ||
胚移植(診察代・検査代・薬代も含む) | 4万円 | ||
合計 | 18万円 |
体外受精は「採卵・採精→受精卵・胚培養→(胚凍結保存)→胚移植」という流れで進みます。実際の費用は、採卵数や培養・凍結保存の個数、移植胚の種類によって変わってきますが、採卵数10個から培養・凍結保存、新鮮胚移植した場合で18万円程度になる見込みです。
体外受精を行う場合、1か月あたりの自己負担額が高額療養費制度の上限額を超えることも珍しくありません。例えば、年収約370~770万円の方が上記の治療を同一月に行い、高額療養費制度を利用したとき、自己負担額は以下のとおりとなります。
年収約370~770万円・高額療養費制度を利用した場合 | |
---|---|
体外受精費用(3割自己負担) | 18万円 |
高額療養費制度からの給付 | 9万6,570円 |
自己負担額合計 | 8万3,430円 |
ケース3. 体外受精と併せて先進医療を行った場合
先進医療は保険適用外となるため、全額自己負担となります。不妊治療の先進医療には、タイムラプスやSEET法、子宮内膜スクラッチなどがあり、1回あたり数万円のものが多く非常に高額です。例えば、ケース2の体外受精とともにタイムラプスを取り入れる場合、自己負担額は22万円程度になると考えられます。
保険適用の体外受精の場合 | |||
---|---|---|---|
治療内容 | 自己負担額 | ||
体外受精費用(3割自己負担) | 18万円 | ||
【先進医療】タイムラプス | 4万円 | ||
合計 | 22万円 |
また、先進医療にかかった費用は、高額療養費制度の対象外となるため注意が必要です。
ただ、東京都や千葉県松戸市など、自治体によっては不妊治療の先進医療部分の費用に助成を出しているところもあるので、調べてみるとよいでしょう。以下は、東京都の助成事業を適用した場合の自己負担額です。
年収約370~770万円・東京都の助成事業・高額療養費制度を利用した場合 | |
---|---|
体外受精費用合計 | 22万円 |
先進医療に対する助成 | 2万8,000円 |
高額療養費制度からの給付 | 9万6,570円 |
自己負担額合計 | 9万5,430円 |
まとめ
不妊治療の費用は、保険適用の治療法を優先的に提案してくれる病院を選び、高額療養費制度や自治体の助成制度をうまく活用することで軽減できます。また、必要に応じて民間の医療保険や金融機関のローンも検討し、できるだけ早いうちに妊活に集中できる環境を整えましょう。
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