監修者 | |
株式会社400F オンラインアドバイザー 上田 雄貴 公的保険アドバイザー / 2級FP技能士 / 証券外務員二種 |
入院時の差額ベッド代とは
入院時の差額ベッド代(室料差額)とは、患者側が個室などの「特別療養環境室」への入院を希望した場合に発生する費用のことです。
患者の療養環境の向上に対するニーズに対応することを目的として、厚生労働省によって細かな条件が設けられています。
- 特別の療養環境に係る一の病室の病床数は4床以下
- 病室の面積は1人当たり6.4平方メートル以上
- 病床ごとのプライバシーの確保を図るための設備を備えている
- 特別の療養環境として適切な設備を有する
参照:令和4年3月4日「「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」の一部改正について14ページ|厚生労働省
上記の条件を簡単にまとめると、患者それぞれのプライバシーを確保するために仕切りカーテンなどが備えられている1〜4人部屋に入院をする場合、室料差額という費目で差額ベッド代が請求されるということです。
言い換えると、6人部屋などの大部屋に入院する場合、差額ベッド代は発生しません。
詳細は後述しますが、それ以外にも差額ベッド代が発生しない諸条件もあるので、個室への入院=差額ベッド代が発生するわけではないことを覚えておきましょう。
差額ベッド代の平均費用
差額ベッド代として請求される金額は病院側が自由に設定できることになっています。
中央社会保険医療協議会の「主な選定療養に係る報告状況(令和5年7月5日)」を参照すると、差額ベッド代の平均的な費用は次の通りです。
1日あたりの差額ベッド代の平均費用(令和4年7月1日時点) | ||
---|---|---|
項目 | 1日あたり平均額 | 合計病床数 |
1人部屋 | 8,322円 | 183,075床 |
2人部屋 | 3,101円 | 39,346床 |
3人部屋 | 2,826円 | 4,021床 |
4人部屋 | 2,705円 | 40,314床 |
平均/合計 | 6,620円 | 266,756床 |
参照:主な選定療養に係る報告状況|第548回 中央社会保険医療協議会 総会議事録|厚生労働省
一方、厚生労働省の「令和2年(2020)患者調査の概況」では、主な傷病分類別の平均入院日数が公開されています。
この結果を下に、傷病分類別の入院日数における差額ベッド代の平均費用を計算すると、次の結果となります。
傷病分類別の差額ベッド代の平均費用 | ||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
傷病分類 | 平均入院日数 | 平均入院日数×差額ベッド代 | ||||||||||
総数 | 32.3日 | 213,826円 | ||||||||||
感染症および寄生虫症(結核、ウイルス性肝炎など) | 23.7日 | 156,894円 | ||||||||||
新生物(腫瘍)(胃がん、直腸がんなど) | 18.2日 | 120,484円 | ||||||||||
血液及び造血器の疾患並びに免疫機構の障害 | 23.4日 | 154,908円 | ||||||||||
内分泌、栄養及び代謝疾患 | 24.9日 | 164,838円 | ||||||||||
精神及び行動の障害(統合失調症、認知症など) | 294.2日 | 1,947,604円 | ||||||||||
神経系の疾患(アルツハイマー病など) | 83.5日 | 552,770円 | ||||||||||
眼及び付属器の疾患 | 3.9日 | 25,818円 | ||||||||||
耳及び乳様突起の疾患 | 8.0日 | 52,960円 | ||||||||||
循環器系の疾患(心疾患、脳血管疾患など) | 41.5日 | 274,730円 | ||||||||||
呼吸器系の疾患(肺炎、喘息など) | 34.5日 | 228,390円 | ||||||||||
消化器系の疾患(歯肉炎及び歯周疾患、肝疾患など) | 13.2日 | 87,384円 | ||||||||||
皮膚及び皮下組織の疾患 | 25.7日 | 170,134円 | ||||||||||
筋骨格系及び結合組織の疾患 | 31.9日 | 211,178円 | ||||||||||
腎尿路生殖器系の疾患 | 24.5日 | 162,190円 | ||||||||||
妊娠、分娩及び産褥(さんじょく)など | 7.5日 | 49,650円 |
参照:表6 傷病分類別にみた年齢階級別退院患者の平均在院日数|3 退院患者の平均在院日数等|令和2年(2020)患者調査の概況|厚生労働省
参照:主な選定療養に係る報告状況|第548回 中央社会保険医療協議会 総会議事録|厚生労働省
傷病によって平均的な入院日数は大きく異なり、それに伴い病院側から請求される差額ベッド代にも大きな開きがあります。
上記以外に、入院費用や手術費用、入院中の食事代や衣類、家族の分の生活費など、様々な費用が発生します。
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最近は短期入院傾向であるとはいえ、長期入院になってしまった際は、差額ベッド代含め、入院費用が高額になりがちです。医療保険で備えるべきポイントとしては、大きく二点あります。
一点は、入院日額保障が差額ベッド代を賄えるような金額になっているかどうかという点です。
もう一点は、一入院あたりの限度日数が何日型かという点です。一般的には60日型か120日型ではありますが、それ以上の長期入院には3大疾病入院無制限等特定の疾患に対し入院日数を無制限で保障されるものがあります。
差額ベッド代が発生する条件
入院患者が差額ベッド代を支払う必要があるのは、次の2点に該当する場合です。
- 患者自らが個室などの特別療養環境室を希望した場合
- 患者が病院の提案を了承して同意書にサインした場合
上記の通り、患者自らが個室や小部屋を希望する場合や、病院の提案を了承して同意書にサインをした場合のみ差額ベッド代の支払いが必要です。
病院側の都合や医師の判断など、患者が希望をしておらず、やむを得ない事情で特別療養環境室に入院をする場合は差額ベッド代の支払い義務はありません。
なお、病院での「入院」のカウントは、午前0時を起点に計算されるのが一般的です。
短時間で日帰り退院となった場合でも、日を跨いだ場合は1泊2日と計算され、合計で2日分の差額ベッド代が発生します。
差額ベッド代は全額自己負担
日本では医療機関を受診する際に公的医療保険(健康保険や国民健康保険)が適用されますが、差額ベッド代に関しては保障の対象外となっています。
「差額ベッド代の平均費用」で紹介したように、入院日数に応じて非常に高額な差額ベッド代が発生しますが、その全額を自己負担で支払う必要があります。
また、1年間で一定以上の医療費を支払った場合に利用可能な「医療費控除」ですが、治療のために必要最低限なもの(医師の判断など)と認められない限り、差額ベッド代は医療費控除の対象外です。
さらに、もしもの入院の際には入院費用や差額ベッド代に加え、入院中の食事代や生活費、働けない期間中の収入減少リスクにも備えておかなければなりません。
中でも差額ベッド代は病院によって高額な医療費が発生する可能性が高いので、民間の医療保険に加入して差額ベッド代を含む入院費用に備えておく必要性は高いと言えます。
差額ベッド代を支払わなくてよいケース
特別療養環境室を利用する際に発生する差額ベッド代ですが、次の3点に該当する場合は差額ベッド代を支払う必要はありません。
差額ベッド代を支払わなくてよい3つのケースについて、それぞれ解説していきます。
同意書による確認を行っていない場合
厚生労働省では、患者を特別療養環境室に入院させる場合、病院側に次の事項を履行する必要があると定めています。
- 保険医療機関内の見やすい場所(受付窓口や待合室など)に特別療養環境室のベッド数や特別療養環境室の場所、料金など患者にとって分かりやすく掲示すること
- 特別療養環境室への入院を希望する患者に対して、特別療養環境室の設備構造、料金などを明確かつ懇切丁寧に説明し、患者側の同意を確認のうえで入院させること
- この同意の確認は、料金等を明示した文書に患者側の署名を受けることにより行うものとする
※同意書については当該保険医療機関が保存し、必要に応じていつでも提示可能な状態にする義務がある
参照:令和4年3月4日「「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」の一部改正について16ページ|厚生労働省
上記の通り、料金の記載がない場合や患者の署名がない場合など、同意書による確認が行われていない場合は、差額ベッド代を支払う必要はありません。
治療上の都合で特別室に入院した場合
厚生労働省により、「患者本人の治療上、医師の判断で特別療養環境室に入院する必要がある場合」は、差額ベッド代を請求してはならないと定められています。
たとえば、次に該当するケースは差額ベッド代を支払う必要はありません。
- 救急患者、術後患者等であって、病状が重篤なため安静を必要とする者、又は常時監視を要し、適時適切な看護及び介助を必要とする者
- 免疫力が低下し、感染症に罹患するおそれのある患者
- 集中治療の実施、著しい身体的・精神的苦痛を緩和する必要のある終末期の患者
- 後天性免疫不全症候群の病原体に感染している患者
- クロイツフェルト・ヤコブ病の患者
参照:令和4年3月4日「「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」の一部改正について16ページ|厚生労働省
特別療養環境室へ入院することになった場合、医師の判断によるものかどうかを確認しておくことで、後から差額ベッド代を請求されるトラブルを未然に防げます。
病院側の都合で特別室に入院した場合
病院側の都合などで特別室に入院した場合も、差額ベッド代を支払う必要はありません。
- MRSA等に感染している患者で、主治医等が他の入院患者の院内感染を防止するために必要と判断した場合
- 特別療養環境室以外の病室の病床が満床の場合
参照:令和4年3月4日「「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」の一部改正について16ページ|厚生労働省
大部屋が満室などで特別療養環境室へ入院する必要がある場合は、病院側の都合となることから患者が差額ベッド代を負担する必要はありません。
差額ベッド代を支払う必要があるのは「同意書にサインをした場合」「患者自らが希望した場合」の2点に該当する場合のみです。
請求書を確認して不当な差額ベッド代が請求されている場合は、同意書の有無を確認することを心がけましょう。
差額ベッド代のトラブルを防ぐには
差額ベッド代が原因のトラブルを防ぐには、次のポイントを押さえておくことが大切です。
- 入院に必要な書類は必ず目を通す
- 十分な説明を受けていない場合や内容をよく理解できない書類にはサインしない
- 料金や施設など不明点や疑問点がある場合は必ず窓口で確認を取る
突然の入院で混乱している中で入院に必要な書類への署名を求められると、内容をしっかりと理解しないまま、ついつい流れに任せてサインをしてしまいがちです。
十分な説明を受けていない場合や料金等の記載がない同意書への署名は無効とされていますが、急な入院で心身ともに疲弊している中、差額ベッド代でのトラブルが面倒に感じられる方も多いことでしょう。
入院をすることになった場合、まずは落ち着いて必要書類の全てに目を通し、疑問点や不明点がある場合は必ず窓口で確認を取ることを心がけてください。
なお、差額ベッド代に関しては、特別療養環境室や室料差額といった形で記載されているケースが一般的です。必要書類を読み込む際は、差額ベッド代に関する記述を見落とすことがないように気をつけましょう。
差額ベッド代に関する相談は地方厚生局の窓口まで
差額ベッド代に関しては、同意がないと入院を拒否されたり、他の病院への転院を強制されたり、支払う必要のない不当な室料差額が請求されるなど、トラブルの要因になりがちです。
差額ベッド代については、各地方支部部局の地方厚生局の窓口でも相談を受け付けているので参考にしてください。
地方厚生局の問い合わせ先 | |
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名称 | 連絡先 ※ |
北海道厚生局 | 総務課:011-709-2311 |
東北厚生局 | 総務課:022‐726‐9260 |
関東信越厚生局 | 総務課:048‐740‐0711 |
東海北陸厚生局 | 総務課:052‐971‐8831 |
近畿厚生局 | 総務課:06‐6942‐2241 |
中国四国厚生局 | 総務課:082‐223‐8181 |
四国厚生支局 | 総務課:087‐851‐9565 |
九州厚生局 | 総務課:092‐707‐1115 |
※ 代表電話番号として総務課の番号を記載
差額ベッド代のカバーは医療保険で
患者が希望しない場合や医師の判断による場合は差額ベッド代を負担する必要はありませんが、大部屋では他の入院患者が気になり、入院中に多大なストレスを感じる可能性も十分に考えられます。
一方、個室や小部屋を希望すれば高額な差額ベッド代が発生する可能性がありますが、差額ベッド代については公的医療保険が適用されないため、全額を自己負担で支払わなければなりません。
差額ベッド代を含む高額な医療費に備えるためには、民間の医療保険を検討するのが良いでしょう。
毎月の保険料負担が発生するものの、もしもの入院時にはまとまった金額の保険金を受け取れるので、差額ベッド代を気にせずに特別療養環境室を選択して治療に専念できます。
支払われる保険金は用途が限定されていないため、差額ベッド代以外に発生する入院費用(食事代やその他生活費など)、働けない期間中の収入減少リスクにも備えられるので安心です。
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株式会社400F オンラインアドバイザー 上田 雄貴 公的保険アドバイザー / 2級FP技能士 / 証券外務員二種 |
医療保険の備え方のポイントをお伝えします。まず、治療費用については高額療養費制度があるため、その費用を補うには入院一時金保障というものがおすすめです。
高額療養費に合わせ、入院一時金の金額を調整すると良いでしょう。
また、差額別途代を含む治療費用以外については、入院日額保障で備えると良いでしょう。個室費用を賄いたい方は日額10,000円前後、大部屋を選択される方は日額3,000円~5,000円を備えていただくと合理的であると言えます。
まとめ
大部屋での入院は他の入院患者などが気になり、差額ベッド代を払ってでも個室や小部屋を選択し、少しでもストレスのない入院生活を送りたいと考えている方も多いことでしょう。
ただし、差額ベッド代は公的医療保険が適用されず、後から医療費控除を受けることもできないため、全額を自己負担で賄わなければなりません。
差額ベッド代は入院日数に応じて非常に高額になりやすく、いざ入院ともなれば、差額ベッド代以外に入院費用や手術費用、入院期間中の生活費など、諸々の出費もかさみます。
民間の医療保険に加入していれば、差額ベッド代を含む高額な医療費に対して手厚い保障を備えられます。収入減少リスクへの備えとしても活用できるので、もしものときに備えて医療保険に加入しておくと安心です。
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株式会社400F オンラインアドバイザー 上田 雄貴 公的保険アドバイザー / 2級FP技能士 / 証券外務員二種 |
入院時費用の備え方としては医療保険に適正に加入することがおすすめです。一方、注意点としては医療保険を手厚くしていても備えきれない状態もあります。
がん等の特定の病気に対する中長期に亘る治療費は、入院時だけではなく通院時も多くかかるため、がん保障や特定疾病保障の備え方が有効です。
また、病気やケガにより中長期に亘り働けなくなる収入減少は経済的負担が大きくなりやすいため、就業不能保障といった備えを持つことが有効であるといえます。