監修者 | |
株式会社400F オンラインアドバイザー 黒木 信一郎 公的保険アドバイザー / AFP(日本FP協会認定) / TLC(生保協会認定FP) |
傷病手当金とは
傷病手当金は、健康保険の被保険者(主に会社員または公務員)が病気やケガで働けなくなった期間の生活を保障するための制度です。
働けない期間が連続して3日間存在し、かつ4日目以降の休業中に事業主から十分な報酬が支払われない場合、健康保険から給付金が支給されます。
支給条件に該当すれば、近年増加傾向にある精神疾患(うつ病や統合失調症など)で働けない場合や退職後にも傷病手当金を受け取れることが特徴です。
傷病手当金は最長で1年6カ月間も支給されるので、もしものときに備えて支給条件や請求方法を確認しておきましょう。
なお、傷病手当金が支給されるのは健康保険の被保険者のみ(主に会社員)で、勤務先の健康保険に加入中のパートタイマーも傷病手当金を受け取れます。
また、すでに傷病手当金を受け取っている場合や、受け取るための条件を満たしている場合、退職などで健康保険の資格を喪失した後も継続して傷病手当金が支給されます。
一方、自営業者やフリーランスの方が加入する国民健康保険には、傷病手当金のような制度が存在しないのでご注意ください。
監修者 | |
株式会社400F オンラインアドバイザー 黒木 信一郎 公的保険アドバイザー / AFP(日本FP協会認定) / TLC(生保協会認定FP) |
傷病手当金は、以前は支給開始日から1年6か月経過後は不支給となる制度でしたが、2022年1月1日より支給期間が「通算して1年6ヶ月」となりました。
古いサイトなどでは以前の情報が記載されていることもあるため、誤認しないよう注意が必要です。
傷病手当金の支給条件
傷病手当金は、以下の4つの条件すべてを満たした場合に支給されます。
業務外のケガ・病気であること
傷病手当金は、業務外のケガや病気による休業期間の生活を保障する制度です。
業務内または通勤途上で発生した病気やケガは「労災保険(労働災害保険)」の保障対象で、労災から休業補償給付を受け取れます。
傷病手当金と労災保険が重複して適用されることはないので、その点はあらかじめ理解しておくようにしましょう。
なお、傷病手当金は精神疾患の場合でも支給されますが、美容整形や健康診断などの病気とみなされないケースは支給対象外となります。
また、産前・産後で働けない場合は「出産手当金」が支給されるため、原則として傷病手当金の支給はありません。
詳細は後述しますが、出産手当金よりも傷病手当金の日額のほうが多い場合は後から差額分を請求できます。
労務不能の状態であると判断されていること
傷病手当金を請求するには、加入中の健康保険から「労務不能の状態」と判断される必要があります。
労務不能の状態の判定は、療養担当者(医師)の意見を基に被保険者の仕事内容を考慮して、健康保険の保険者によって判断されます。
そのため、仮に病気やケガの治療中であっても、業務内容の変更や部署異動で継続して勤務をしている場合は傷病手当金が支給されません。
また、自己判断で労務不能状態と判定できる訳ではなく、あくまで健康保険の保険者が労務不能の状態を判断するということを覚えておきましょう。
連続する3日の休業を含め4日以上仕事に就けないこと
傷病手当金は、連続する3日間(待機期間)を含む4日以上の休業期間がある場合、4日目以降から支給されます。
たとえば、4日以上の休業期間がある場合でも、2日休業→1日出社→2日休業というようなケースは傷病手当金の支給対象外です。
一方、連続した3日間の待機期間が完成した翌日に出社し、さらにその翌日から休業期間に入った場合は傷病手当金を受け取ることができます。
なお、待機期間中は土日祝日などの公休日や有給休暇も含まれており、待機期間中に関しては給与の支払い有無は条件に含まれません。
待機期間中は傷病手当金の支給対象から除外されているため、病気やケガで働けない状態となった場合、待機期間中は有給休暇を利用することで、収入が減少する期間を可能な限り短くすることが可能です。
ただし、4日目以降も有給休暇で休んでしまうと、その期間は傷病手当金が支給されないので気をつけましょう。
仕事を休んだ期間の給与支払いがないこと
傷病手当金は、休業期間中に事業主から給与支払いがある場合は支給されません。
ただし、給与支払いがある場合でも、傷病手当金の日額のほうが多い場合は、その差額分が支給されます。
一方、任意継続被保険者の期間中に発生した病気やケガは、傷病手当金の支給対象外となっているのでご注意ください。
傷病手当金の支給額
傷病手当金の支給額は、給与として受け取っていた月額報酬の約2/3です。
具体的には、以下の計算式で「傷病手当金日額」が算出されます。
1日当たりの支給金額:【支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額】÷30日×(2/3)
※支給開始日は、最初に傷病手当金が支給された日を指します
※支給開始日以前の期間が12カ月に満たない場合は「支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額」「30万円(標準報酬月額の平均値、2024年3月時点)」のどちらか低い額が採用されます
参照:傷病手当金|全国健康保険協会
たとえば、12カ月間の標準報酬月額の平均が30万円の場合、支給される傷病手当金日額は、以下の通りとなります。
30万円÷30日×2/3=約6,667円(日額)
※「30日」で割った時点で1の位を四捨五入します
※「2/3」で計算した金額に小数点がある場合は小数点第1位を四捨五入します
参照:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|全国健康保険協会
標準報酬月額の平均が30万円の場合、1日あたり6,667円、1カ月換算で約20万円の傷病手当金が支給される計算です。
傷病手当金は最長で1年6カ月間は継続して支給されるため、上記の例で言うと最大で約360万円が振り込まれることになります。
なお、標準報酬月額の平均には賞与などの手当は含まれないので、傷病手当金を計算する際は気をつけましょう。
監修者 | |
株式会社400F オンラインアドバイザー 黒木 信一郎 公的保険アドバイザー / AFP(日本FP協会認定) / TLC(生保協会認定FP) |
記述されている通り、賞与などは含まれません。また、傷病手当金は非課税所得ですが、受給中でも「住民税」と「社会保険料」の支払いは必要です。
単純に額面年収の3分の2だと勘違いしないように注意しましょう。
傷病手当金の支給タイミング
傷病手当金は、請求手続きを行ってから実際に支給されるまで、およそ2週間〜3カ月程度の時間がかかります。
時間がかかる理由は保険者側で傷病手当金の審査が行われるためで、支給タイミングは支払い方法(勤務先の会社経由、または指定口座への直接振り込みなど)によって異なります。
たとえば、全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合、約10営業日(土日祝、年末年始を除く)を目処に指定した口座へ傷病手当金が振り込まれます。
なお、請求手続きを行う際は、事業主からの給与支払の有無を証明する書類が必要です。
そのため、1カ月以上の長期休業が必要な場合、傷病手当金の申請は1カ月単位で給与の締切日ごとに手続きを行うのが一般的です。
請求期限は休業した日の翌日から数えて2年以内とされているので、支給条件に該当する場合は早めに請求手続きを行うようにしてください。
傷病手当金の支給が調整されるケース
標準報酬月額の約2/3が支払われる傷病手当金ですが、以下のいずれかのケースに該当する場合は支給額が調整されます。
これらに該当すると、傷病手当金が減額または支給停止となります。
もしものときに備えて、傷病手当金が調整されるケースについて確認しておきましょう。
給与が支払われていた場合
傷病手当金の支給期間中に事業主から給与が支払われている場合、原則として傷病手当金の支給は停止となります。
ただし、傷病手当金日額よりも給与の日額が少ない場合、請求手続きをすることでその差額分を受給可能です。
なお、支給開始日が2020年7月1日以前の場合、支給期間中の給与発生日も傷病手当金の最長1年6カ月間のカウント対象(傷病手当金の支給はなし)に含まれていました。
一方、2020年7月2日以降では、支給期間中の給与発生日はカウント対象から除外され、傷病手当金の支給期間は「最初の支給開始日から通算1年6カ月間」に変更されています。
2020年7月1日以前に傷病手当金の請求手続きをしたことがある方は、カウント方法が変更されたことを理解しておきましょう。
障害厚生年金・障害手当金を受けている場合
同じ病気やケガが原因で障害厚生年金や障害手当金を受けている場合、傷病手当金は支給されません。
障害厚生年金・障害手当金の特徴 | |||||
---|---|---|---|---|---|
障害厚生年金 | 障害基礎年金の1級または2級に該当する障害状態となった場合、障害基礎年金に上乗せして支給される厚生年金のこと | ||||
障害手当金 | 初診日から5年以内に病気やケガが治り、障害厚生年金を受けるよりも軽い障害が残った場合に支給される一時金のこと |
ただし、障害厚生年金や障害手当金の支給額が傷病手当金日額よりも少ない場合、その差額分を請求することができます。
老齢退職年金を受けている場合
傷病手当金を受給している方が会社の定年退職により、老齢退職年金を受ける場合は傷病手当金が支給停止となります。
なお、老齢退職年金の額の360分の1が傷病手当金日額より少ない場合、その差額分を請求できます。
労災保険から休業補償給付を受けていた場合
労災保険から休業補償給付を受けていて、同じ病気やケガが原因で労務不能となった場合、傷病手当金は支給されません。
具体的には、通勤途上や業務中の病気やケガは労災保険の対象となり、健康保険からの傷病手当金との同時受給ができないためです。
また、業務外の理由による病気やケガで労務不能となった場合でも、別の原因で労災保険から休業補償給付を受けている期間は、傷病手当金を受け取ることができません。
ただし、他の事由と同様で、傷病手当金日額よりも休業補償給付日額が少ない場合、その差額分を請求することが可能です。
出産手当金が同時に受けられる場合
女性の出産時には、出産の日以前42日から出産の翌日以後56日目までの会社を休業した範囲内で、健康保険から出産手当金が支給されます。
ただし、出産手当金が支給される期間中、傷病手当金は支給されません。
なお、傷病手当金日額のほうが出産手当金よりも多い場合、後からその差額分を請求できます。
傷病手当金の申請の流れ
傷病手当金は、以下の流れで申請手続きを行うのが一般的です。
- 勤務先に長期休暇が必要な旨を告げる
- 傷病手当金支給申請書を取り寄せる(ホームページからのダウンロードも可能)
- 待期期間を完成させる(連続した3日間の休業)
- 傷病手当金支給申請書に記入し、必要な添付書類があれば準備する
- 保険者に必要書類および添付書類を提出して申請手続きを完了させる
必要書類の提出先は、健康保険証に記載されている保険者が保険組合の場合は「勤務先の担当部署」、協会けんぽの場合は「協会けんぽの支部宛て」となります。
協会けんぽの支部へ提出する場合は、勤務先経由でも自分で郵送しても問題ありません。
ただし、提出書類には事業主や担当医師が記入する項目があるため、忘れずに記入してもらうようにしてください。
また、傷病手当金の申請を行ってから実際に受け取れるまで、2週間〜3カ月程度の時間がかかってしまうので、なるべく早いうちに申請手続きを行うことを心がけましょう。
申請手続きに必要な添付書類
傷病手当金は、原則として「傷病手当金支給申請書」に必要事項を記入して、保険者に提出する必要があります。
また、以下に該当する場合は添付書類が必要です。提出した書類は返却されないため、申請時には原本ではなくコピーした書類を提出するのが良いでしょう。
傷病手当金の申請に必要な添付書類 | |
---|---|
パターン | 内容 |
支給開始日以前の12か月以内で事業所に変更があった場合または定年再雇用等で被保険者証の番号に変更があった場合 | 以前の事業所の名称、所在地及び事業所に使用されていた期間がわかる書類 |
障害厚生年金の給付を受けている方でマイナンバーを利用した情報照会を希望しない場合 | 年金給付額等がわかる書類 ①障害厚生年金給付の年金証書またはこれに準ずる書類のコピー ②障害厚生年金の直近の額を証明する書類(年金額改定通知書等)のコピー |
障害手当金の給付を受けている方でマイナンバーを利用した情報照会を希望しない場合 | 年金給付額等がわかる書類(障害手当金の支給を証明する書類のコピー) |
(申請期間が資格喪失後の場合) 老齢退職年金の給付を受けている方でマイナンバーを利用した情報照会を希望しない場合 | 年金給付額等がわかる書類 ①老齢退職年金給付の年金証書またはこれに準ずる書類のコピー ②老齢退職年金の直近の額を証明する書類(年金額改定通知書等)のコピー |
労災保険から休業補償給付受けている場合 | 休業補償給付支給決定通知書のコピー |
傷病の原因が第三者の行為(交通事故やけんか等)によるものである場合 | 第三者行為による傷病届 |
被保険者が亡くなられ、相続人が請求する場合 | 被保険者との続柄がわかる「戸籍謄本」等 |
被保険者のマイナンバーを記載した場合(被保険者のマイナンバーは、被保険者証の記号番号を記入した場合は記入不要) | 【マイナンバーカード(個人番号カード)をお持ちの場合】 マイナンバーカードの表面・裏面の両方のコピーを貼付台紙に添付 【マイナンバーカードをお持ちでない場合】 以下の添付書類①②を貼付台紙にどちらも添付 ①番号確認書類 住民票(マイナンバーの記載のあるもの)、住民票記載事項証明書(マイナンバーの記載のあるもの)のうちいずれか一つ ②身元確認書類 運転免許証のコピー、パスポートのコピー、その他官公署が発行する写真付き身分証明書のコピーのうちどれか一つ |
まとめ
傷病手当金は、業務外の病気やケガが原因で、連続した3日間を含む4日以上の休業をする場合に支給される給付金です。
給与の約2/3の金額が最長で1年6カ月間は支給されるため、休業期間が長期化した場合でも必要最低限の収入が保障されています。
ただし、休業期間が4日以上の場合でも、連続した3日間の待機期間が完了していなければ傷病手当金を受け取ることはできません。
また、傷病手当金は保険者に対して自分自身で申請手続きを行う必要があり、申請から実際に受け取れるまで2週間〜3カ月程度の時間がかかります。
傷病手当金の申請手続きや必要な書類を確認しておき、予測が難しい病気やケガのリスクに備えておくことを心がけましょう。
監修者 | |
株式会社400F オンラインアドバイザー 黒木 信一郎 公的保険アドバイザー / AFP(日本FP協会認定) / TLC(生保協会認定FP) |
加入されている健康保険組合によっては、今回ご案内した内容に加えて、傷病手当金に独自の給付(付加給付)を上積みしていたり、延長傷病手当金付加金が支給されるケースもあります。
業界団体の健康保険組合に加入されている方は、付加給付などがないか、しっかりと確認しておきましょう。