未成年の子どもを育てている夫婦が離婚をすると、一般的にはその子どもが成人を迎えるまでの間、養育費を支払います。養育費として支払う金額は定められているわけではなく、夫婦間での話し合いで決まります。
もし話し合いがまとまらない場合は、裁判所で協議や調停を行うことになり、その際の養育費の相場として参考になるのが「養育費算定表」です。
本記事では、国の統計データを参照しながら養育費の平均額や養育費の決め方、養育費に関するよくある質問にお答えします。
- 養育費とは、子どもが経済的・社会的に自立するまでの費用として、衣食住に必要な経費、教育資金、医療費などのことである
- 養育費を決定する際の目安として、夫婦二人の収入や養育する子どもの人数に応じて、簡易的に養育費を算出できるようにした「養育費算定表」が用いられる
- 養育費に関する取り決めは、権利や義務を法令に沿った形で作成する「公正証書」として保管することで、養育費が支払われない場合に備えられる
養育費とは
養育費とは、離婚する夫婦の間に未成年の子どもがいる場合にその子どもを養育するための費用のことです。
法務省(※)によると、「子どもが経済的・社会的に自立するまでの費用として、衣食住に必要な経費、教育資金、医療費など」が養育費に該当するとしています。
養育費の一例
- 生活費:食費や被服費、家賃など生活に関わる費用全般
- 教育費:授業料や教材費、塾など勉学に必要な費用全般
- 医療費:医療機関受診時の費用
- 交通費:通学時の費用
- その他:子どもへのお小遣いなど
養育費の請求は、離婚後に子どもを監護する親(監護者)が、子どもを監護しない親(非監護親)に対して行います。
(※)参照:Q1 養育費とは何ですか。|養育費|法務省
なぜ養育費を支払う必要があるの?
離婚後に養育費の請求が行われる理由は、夫婦が離婚をしても親と子の関係性に変わりはないことから、民法によって定められた「扶養義務」があるためです。
民法 第七百五十二条(同居、協力及び扶助の義務)
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
民法 第七百六十六条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
- 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
- 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
- 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
- 前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。
参照:民法|e-Gov法令検索
民法に明確な記載はされていないものの、扶養義務には大きく分けて「生活保持義務」と「生活扶助義務」の2種類の考え方があります。
生活保持義務:自身と同程度の生活を子どもにも保障する義務のこと
生活扶助義務:自身が通常の生活を送れることを前提に、余力の範囲内で被扶養者を扶養する義務のこと
親の子に対する養育費の支払義務は生活保持義務だとされていますから、夫婦が離婚をしても親権を持つ親は、子どもを養育するための費用として養育費を請求することが認められています。
養育費の平均額
厚生労働省の「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果報告」によると、離婚後の養育費の1ヶ月あたりの平均額は次のとおりです。
※令和3年度の調査結果は推計値です
※養育費を現在も受けている又は受けたことがある世帯で、額が決まっているものに限ります
養育費として支払われる金額は、父子世帯よりも母子世帯のほうが多く、また養育する子どもの人数によっても金額は大きく変動します。また、前回調査の平成28年度と比べると、養育費の平均額は数千円から数万円程度増額されていました。
ただし、養育費として必要な金額は世帯収入や生活環境によっても変動するため、これらはあくまで目安として考えましょう。
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養育費の金額の決め方
養育費の金額などの条件は法で定められているわけでなく、自由に設定することができます。基本的には、夫婦間で以下のような内容を決めておく必要があるでしょう。
話し合いで決めておきたいこと
- 月額の養育費
- 支払日や支払い方法
- 支払期間
- 子どもが病気にかかった、受け取り側が働けなくなった等万一の場合の増減額条件 など
法務省のHPにて、養育費や親子交流(面会交流)の取り決め方、合意書のひな型などを公開していますので、ぜひご参考ください。
もし話し合いで意見がまとまらない場合は、家庭裁判所で離婚協議や離婚調停を行って金額や支払い方法を決めます。以下は、教育費の具体的な金額の決め方手順の一例です。
養育費の金額の決め方手順
- 1. 義務者(支払う側)と権利者(受け取る側)それぞれの収入額を認定する
- 2. 義務者、権利者、子どもそれぞれの最低生活費を認定する
- 3. 義務者と権利者の負担能力の有無を確認する
- 4. 子どもに充てられるべき生活費を認定する
- 5. 義務者の負担分を認定する
上記の手順は一般的な方法ではありますが、膨大な労力がかかります。そこで、夫婦の収入や養育する子どもの人数に応じて、簡易的に養育費を算出できるようにしたものが「養育費算定表」です。
養育費算定表とは
養育費算定表は、数名の裁判官が研究を重ねて考案した、養育費を算出する際に用いられる一覧表です。本来、子どもの人数や夫婦の収入状況を元に養育費の計算が行われますが、非常に複雑な計算となるため、簡易的かつ迅速に算出するために算定表が作られました。
養育費算定表は、子どもの人数と年齢に応じて9種類に分けられ、それぞれ義務者(養育費を支払う側)と権利者(養育費を受け取る側)の年収ごとに、大まかな養育費の目安が記載されています。
家庭裁判所で協議される際に、離婚時の養育費を計算するために「養育費算定表」が多く利用されています。
ただし、養育費算定表の数値もあくまで目安で、子どもが公立中学校や公立高等学校に通うことを前提に計算されているため、収入状況や家庭環境などのさまざまな事情で金額は変動します。
私立学校へ進学するときは算定表以上の学費が発生する可能性が高く、養育費の加算を主張する必要があったり、反対にさまざまな事情から裁判官へ養育費の減額請求の主張が行われることも少なくありません。
養育費の計算は非常に複雑なので、養育費算定表を参考にしつつ、基本的には法律の専門家である弁護士に相談することを推奨します。
養育費の取り決めは公正証書として残す
養育費に関する取り決めは、権利や義務を法令に沿った形で作成する「公正証書」として保管するようにしましょう。
公正証書には強い法的効力があるため、仮に養育費の支払いが履行されない場合は、公正証書をもとに強制執行の手続きが可能です。公正証書を作成するには、事前に取りまとめた内容を記載した文書を公証役場に持ち込む必要があります。
当事者同士で話し合いがまとまらない場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談し、養育費の内容をまとめてから公証役場に向かいましょう。公正証書の原本は作成した公証役場で最低20年間は保管されるので、万一紛失してしまった場合でも再交付が可能です。
ただし、公正証書の作成や再交付には手数料が必要です。弁護士や司法書士などの公証人への相談は無料のケースが多いので、事前に確認しておきましょう。
養育費の相場(養育費算定表をもとに算出)
養育費算定表を用いて、子ども1人、子ども2人の場合の世帯収入別の養育費の相場を表にしました。(いずれも妻が子どもを養育している場合を想定)
子ども1人の場合の養育費の相場
子どもが「0~14歳」の場合と、「15歳以上」の場合にわけて、世帯収入別にまとめた養育費の相場は以下の通りです。
子どもの1人(0~14歳)の場合の養育費の相場 | ||||
---|---|---|---|---|
夫の年収 | 500万円(会社員) | 500万円(自営業) | 400万円(会社員) | 550万円(会社員) |
妻の年収 | 0円(専業主婦) | 0円(専業主婦) | 125万円以上(会社員) | 250万円(会社員) |
養育費の相場(月額) | 6~8万円 | 8~10万円 | 2~4万円 | 4~6万円 |
子どもの1人(15歳以上)の場合の養育費の相場 | ||||
---|---|---|---|---|
夫の年収 | 500万円(会社員) | 500万円(自営業) | 400万円(会社員) | 550万円(会社員) |
妻の年収 | 0円(専業主婦) | 0円(専業主婦) | 25~225万円(会社員) | 250万円以上(会社員) |
養育費の相場(月額) | 8~10万円 | 10~12万円 | 4~6万円 | 4~6万円 |
夫婦間の年収の差が大きかったり、子どもの年齢が上がるほど養育費の相場が上がっていることがわります。
また、職業が会社員と自営業でも、養育費の相場が大きく異なることがわかりました。
子ども2人の場合の養育費の相場
続いて子ども2人いる場合の、「2人とも0~14歳」「1人目15歳以上、2人目0~14歳」「2人とも15歳以上」の3パターンの養育費の相場をご紹介します。
子どもの2人(2人とも0~14歳)の場合の養育費の相場 | ||||
---|---|---|---|---|
夫の年収 | 500万円(会社員) | 500万円(自営業) | 400万円(会社員) | 550万円(会社員) |
妻の年収 | 0円(専業主婦) | 0円(専業主婦) | 100~375万円(会社員) | 175~400万円(会社員) |
養育費の相場(月額) | 8~10万円 | 12~14万円 | 4~6万円 | 6~8万円 |
子どもの2人(1人目15歳以上、2人目0~14歳)の場合の養育費の相場 | ||||
---|---|---|---|---|
夫の年収 | 500万円(会社員) | 500万円(自営業) | 400万円(会社員) | 550万円(会社員) |
妻の年収 | 0円(専業主婦) | 0円(専業主婦) | 25~125万円(会社員) | 75~200万円(会社員) |
養育費の相場(月額) | 10~12万円 | 12~14万円 | 6~8万円 | 8~10万円 |
子どもの2人(2人とも15歳以上)の場合の養育費の相場 | ||||
---|---|---|---|---|
夫の年収 | 500万円(会社員) | 500万円(自営業) | 400万円(会社員) | 550万円(会社員) |
妻の年収 | 0円(専業主婦) | 0円(専業主婦) | 50~175万円(会社員) | 100~250万円(会社員) |
養育費の相場(月額) | 10~12万円 | 14~16万円 | 6~8万円 | 8~10万円 |
子ども1人の場合と比較すると、養育費の相場は単純に2倍になっているわけではありませんが、子ども1人よりも高い傾向にあり、子どもの年齢が上がるにつれ相場も上がっていることがわかります。
養育費に関するよくある質問Q&A
最後に、離婚時の養育費に関するよくある質問に回答します。
Q1. 養育費はいつまでもらえる?
養育費の支払いは、原則として、子どもが成人するまで継続されます。
なお、2022年4月1日の民法改正に伴い、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられましたが、「子どもが20歳になるまで養育費を支払う」等の取り決めがある場合は、その内容に従って子どもが20歳になるまで養育費を支払うケースが一般的です。
また、法改正施行前に「子どもが成人になるまで養育費を支払う」と取り決めを行った場合、養育費を取り決めた当時は「成人=20歳」を想定していたはずなので、こちらのケースも同様に、20歳まで養育費を支払うのが妥当と判断される可能性が高いといえます。
なお、養育費は過去にさかのぼって請求ができないので、なるべく早いうちに手続きを行うのがおすすめです。
Q2. 養育費の金額は後から変更できる?
養育費の金額は、後から増額や減額、免除の請求手続きを行うことができます。たとえば、子どもが大病を患い医療費が高額になった場合や、進学のために特別な費用が必要なときなどは、増額請求が認められる可能性があります。
一方、養育費の義務者(支払う側)が再婚をして、再婚相手との間に子どもが生まれる場合や、権利者(受け取る側)が再婚をして被扶養者となった場合は、減額請求が認められる可能性も。
ただし、金額の変更手続きは煩雑なため、ご自身で行うよりも法律の専門家である弁護士に相談するのが良いでしょう。
Q3. 養育費が支払われない場合はどうすればいい?
家庭裁判所で請求手続きを行うと、義務者に対して養育費の履行勧告または履行命令をしてもらえます。ただし、履行勧告や履行命令には法的強制力がないので、養育費を取り決める際は万一のことを考慮して、強制執行手続きが可能になる「公正証書」を作成するのが良いでしょう。
ただし、通常は給与債権の4分の1までしか差し押さえができず、養育費の場合は2分の1までが認められているなど、さまざまな注意点もあります。養育費の支払いが行われない場合も、弁護士に相談のうえで適切な対処を行いましょう。
Q4. 再婚した場合、養育費はどうなる?
離婚をして母親が親権者(子どもを養育している)の場合に、それぞれが再婚したときに養育費の支払いはいくつかのパターンに分けられます。
母親が再婚したときの養育費
- 再婚相手が子どもと養子縁組をした場合:子どもの扶養義務が発生するため、もとの父親の養育費負担が減額または終了となる場合がある
- 再婚相手が養子縁組をしていない場合:法律上は再婚相手に子どもの扶養義務がないため、減額請求は認められない可能性が高い
父親が再婚したときの養育費
- 再婚相手の連れ子と養子縁組をした場合・再婚相手との間に子どもができた場合:養育費負担の減額が認められる可能性が高い
- 養子縁組をしていない場合:再婚相手の子どもに対する法律上の扶養義務がないため、もともとの子どもに対する養育費支払いの減額請求が認められない可能性がある(ただし、再婚相手が稼働できない状態の場合は減額が認められる可能性も)
まとめ
養育費は、離婚する夫婦間に未成年の子どもがいる場合、原則として子どもが成人するまでの期間を養育するために必要な費用のことです。
養育費の一例
- 生活費:食費や被服費、家賃など生活に関わる費用全般
- 教育費:授業料や教材費、塾など勉学に必要な費用全般
- 医療費:医療機関を受診する際の費用
- 交通費:通学するための移動費用
- その他:子どもが必要するお小遣いなど
養育費の金額は、基本的に当事者同士の話し合いで決められますが、話し合いでまとまらない場合は家庭裁判所で協議や審判を行う必要があります。
その際の指標として「養育費算定表」が用いられますが、実際の養育費は子どもの人数や年齢、離婚した夫婦それぞれの収入状況によって変動するため、法律の専門家である弁護士に相談するのが良いでしょう。
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